ソフトウェア技術者協会フォーラム(SEA)にて講演させて頂きました 2/2
SEA Forum in September 2016-SEA で講演した際に参加者の皆さんから頂いたフィードバックはこんな感じでした。
- 我が家の4歳児はlittleBitsより工作の方が興味ある様子。工作の方が創造性が高いのでは?
- 21世紀型スキルを修得するのにプログラミングは必須ではないのでは?
- 複雑なものをシンプルにするのが大切というけれど、複雑なものを複雑なまま受けとる面白さもあるのでは?
- 次もまた来たい、と思う子とそうでない子は何が違う?
どの質問も面白くて、質疑応答の時間はあっという間に終わってしまいました。 参考までに、これらの質問にどう回答したのか書いておきます。
まず創造性について。
これは、工作の方が圧倒的に有利だと思います。littleBitsでは叶いません。
ただそうだとしても、探プロはあくまでもプログラミングを学習するのが目的なので、それに相応しい教材としてlittleBitsを選んでいます。
その上で、例えばScratchのようなプログラミング言語や、ロボット教材と比べると、創作においてlittleBitsの自由度はとても高いと評価しています。
また、静的な工作にlittleBitsを使って動きを加えることで、創造性をさらに刺激することも期待しています。
但し、ワークショップにおいて工作から入ってしまうと工作メインになってしまうので... littleBitsを使って学習をした上で、工作を使って創造性を高める、というステップを踏むようにしています。
次に、21世紀型スキルとプログラミング学習について。
これも仰る通りで、21世紀型スキルを身につける手段は他にもたくさんあると思います。
その中で探プロは、プログラミング学習という観点から真正面に21世紀型スキルを捉えているところにチャレンジ性があると思っています。
プログラミング学習では、コラボレーションや社会との関りといった観点は抜けがちですが、これらをちゃんと学習の中に取り込むことに意義があると信じています。
ある方が仰っていた
「一石二鳥を狙うんだね?」
という言葉が、探プロを一番的確に表現しているかもしれません。
まったくその通りで、プログラミング学習の可能性を広げたくて、いろいろと欲張っている、というのが正しい見方なのでしょうね。
そして、複雑さについて。
複雑なものはそのままで、の方が良いと思うかどうかは人それぞれなので感覚の話でいえば結論は出せませんが、少なくともシステム開発やモノづくりの世界では、複雑なものを複雑なままで作るのは効率の悪いことです。
探プロのワークショップの中で、街の中に信号機を作ったり、今回のワークショップでシーソーを作ったり、こうした作品を作る中には、その本質を捉える過程が必ずあります。
信号機の複雑な仕組みをそのまま再現するのではなく、一度に点灯するのは必ず1色のみ、複数の色が同じ順番に点灯と消灯をくり返す、といった本質の部分だけを再現することに意味があります。
そしてこれは、ムダなこと(必要ないこと)を削ぎ落とすことでもあります。
ムダなものを削ってシンプルにして初めて、一番大切なこと=本質、が見えてくると信じていますし、探プロではこの本質を見極める力を身につけるためにもモデリングのステップは必須なのです。
次もまた来たいと思う子は何が違うのか?
これまでのワークショップの経験から言える1つは、子どもたちはリベンジしたがるということです。
自分が作ったものが納得いかなければ、次も同じものをつくろうとしますし、隣の子が作っていた作品が気になれば、次はマネしようとする。
大人はわりと、きれいに仕上げて満足してしまうのですが、その辺は子どものほうが貪欲にチャレンジしているように感じます。
何度もワークショップに足を運んでくれる子をみていると、「今日はXXXを作るんだ!」とはじめから意気込んでいたりして可愛いです。
実は探プロのコンセプトには「事後学習」というものが入っているのですが、今はまだ実現できていません。
ここには、ワークショップ後の子どもたちの学習を促し、学びへのモチベーションを高める仕掛けを入れたいと思っていて、早く実現したいものの一つです。
勉強になりました、というお声をたくさん頂いたのですが、一番勉強になったのは間違いなく私自身だと思います。
ありがとうございました。
追記:
信号機の本質ってなんだろう?とまじめに考えてみたくなりました。
目的は交通整理なので、色によってどう動くべきかが瞬時に(しかも世界共通で)判断できることが必須要件になりますね。
でもよく思い出してみると、交差点の手前にあるような、1色で点滅する信号機もあります。
ということは、色が複数あるというのは必須の要件ではなさそうだし...色が変わることや点滅によって注意を促すことが本質なのか...
これは次回のワークショップのネタにしてみましょう。
ソフトウェア技術者協会フォーラム(SEA)にて講演させて頂きました 1/2
大学院を卒業してからずっと、興味をもってくださった方に飛び込みのような形で探プロのプレゼンをさせて頂いています。
もう何度やらせて頂いたことでしょう・・・
なかなか一言では伝わらない話を、辛抱強く聞いてくださる皆さんには本当に感謝の言葉しかありません。
たいていの場合お相手は1名か2名なのですが、今回初めて、20名もの方々に対して一度に探プロの説明をさせて頂く機会がありました。
ソフトウェア技術者協会フォーラム(SEA)さんにて。
SEA Forum in September 2016-SEA HomePage
内容はいつもプレゼンする内容とほぼ同じなのですが、今回はlittleBitsを使ったミニワークショップ付きです。
ずっと講義では退屈してしまいますし、子どもたちがやっている学習を少しでも体験して頂きたかったので。
とはいえ、ソフトウェア技術者協会という名がつくほどですから、アカデミックな方ばかりが集まるかもしれず、子ども向けにやっているワークショップではすぐに退屈してしまって時間を持て余すのではないか??
と心配が尽きませんでしたが、、、
始まってみれば皆さんワイワイと楽しんで頂けたようで一安心です。
ワークショップでは、公園にあるものをlittleBitsだけを使って面白く変身させよう!というお題を出しました。
時間の関係で即興(10分くらい)でしたが、スイッチモジュールをシーソーに見立てたり、ベンドセンサーモジュールを羽のように使ったりと、限られた中で非常に考え抜かれた作品を発表して頂きました。
工作そのものもそうですが、ちゃんと見どころを抑えて面白いストーリーを用意してくれるあたりがさすがです。
発想力や創造力には、ある程度の制約があった方が効果的かもしれませんね。
写真を取り損なったのが残念です...
この日の参加者は、8割くらいがプログラミング教育に関心のある方で、1割くらいが子ども向けのワークショップに関心のある方でした。
IT系企業に勤めている方や、プログラミング学習に携わっている方、元エンジニアの方、これまでプログラミングには全く縁がなかった方など、非常にバラエティに富んだ方々に集まって頂きました。
アンケートでは、5段階評価で「とてもよかった」と「よかった」を合わせて90%を超えていたので、初めての講演にしては上出来ではなかったかと思います。
個人的な収穫としては、探プロに好意的な方も批判的な方もいる場で、本当に多様なフィードバックを頂けたことです。
例えば、・・・
その2へ続く
プログラミング学習の目的を考える(評価編) 2/2
前回の記事ではプログラミング学習の「目的」に注目し、探究学習における学習目的の考え方を紹介しました。
今回は、プログラミング学習の目的を評価の観点から考えてみます。
先日、興味深い記事を見つけました。
インタビューを受けているMITメディアラボのミッチェル・レズニック氏は、
私のゴールは一貫して、表現手段としてのプログラミングなのです。
(中略)
本当に大事なのは、目的は何かをきちんと把握することです。私の場合は、子どもたちが「クリエイティブ・シンカー」(創造的発想力を身に付けた人)になることです。
と言っています。
この目的の位置づけには、とても共感します。
多くの場合、プログラミングを学ぶことによって論理的思考力を身につける、と いった目的が設定されますが
プログラミングを「正しく」学んだ場合は、創造的発想力に加えて、論理的思考力も身に付くと思います。論理的思考力が目的の場合においても、算数に加えてプログラミングを学ぶのは有効でしょう。学びに対する意味付け、動機付けという点でプログラミングが役立つからです。
という回答も非常に的を得ていると思います。
そうでないと、論理的思考力を身につけることが目的なら、プログラミングでなくても良いのでは?という意見に反論できないので。
学びに対する動機づけ、という点でも共感します。
この記事では詳細に書かれていませんが、ここでいう動機づけは恐らく、試行錯誤しながらも問題解決に向かって進んでいくプロセスを体験することや、論理的に考えることが、他の学習の効果をさらに高めることに繋がる、という意味だと解釈しています。
探プロの場合、この動機づけのところは少しニュアンスが異なります。
詳しくは以前にも書きました。
複雑な問題に取り組むからこそ
他者との協働に価値が生まれることが理解できるのであり
これこそが、学びに対するモチベーションとなり
学びそのものを楽しむことに繋がる
私は自身の経験から
難しい問題にチャレンジすること、解決するには他者と協力しなければいけないこと、仲間と共に乗り越えることが学びを楽しむことに繋がる
と考えています。
なので探プロのワークショップでは、こうした体験ができるような学習プログラムを設計しているつもりです。
ここが、パソコンやタブレットを使って一人でプログラミングを学習する他との大きな違いだと思っています。
先の記事に戻ると、個人的に最も共感したのがこの部分でした。
本当に重要なことは定量化できないのです。
純粋にプログラミングスキルを身につけることが目的であれば、正確で効率の良いプログラムをどれくらいのスピードで書くことができるか?
といった指標をもてば、とりあえず評価することはできそうです。
(それでも完全に定量化することは難しいでしょうが。。。)
しかし、目的が「クリエイティブかどうか?」であったり、探プロのように21世紀型スキル(=未来を創る力)の修得を目指す場合には、定量評価はもちろん、定性評価であっても非常に難しいです。
この点でも、前回紹介したTCSでの探究学習が参考になります。
TCSでは、各テーマ学習ごとにその本質の理解を目的として設定しています。
例えば、2016年度のテーマ一覧はこんな感じです。
子どもたちが学習内容の本質を理解したかどうかは、学習の過程や最終日の発表を見ることで判断できるのだそうです。
理解すべきことが明確に設定されているので、学習を通じてそこにたどり着いているかどうかを評価する。
実際の評価には高度なスキルや指導者同士の偏りが生じないようナレッジ化やフレームワーク化する工夫が必須だとは思いますが、それでも、学習効果をはかるやり方として非常に良いと思いました。
探プロでいえば、21世紀型スキル(=未来を創る力)の修得が大目的であり、そこに紐づく形で用意される各学習プログラムには、それぞれの学習目的が設定されます。
学習を通じて、論理的思考力や発想力がどの程度上がったのか?
を評価することは難しいけれど
理解してほしかった本質に辿り着けたか?
ということは判断できそうです。
探プロではプログラミングの概念を知ることで、モノゴトの本質を見極める力を養おうとしているわけですから、目的、評価のどちらの側面からみても辻褄は合います。
プログラミング学習の評価、という観点で1つヒントをもらえた気がしました。